「越後の川が紡ぐヒトとサカナの物語Vol.3 新潟県 加治川漁業協同組合」

2022/09/07

市民に愛される暴れ川

加治川写真

 新潟県と山形県にまたがる飯豊山地を水源とする加治川は新潟県新発田市を抜けて日本海へと注ぐ。古くから「暴れ川」と言われ、河川流域に住む人々を水害に悩ませてきた。一方で、人々の暮らしを文化的にも産業面でも支え、新発田市民に愛されてきた川でもある。その「愛される暴れ川」を水産資源の保護と環境改善を目的として活動している加治川漁業協同組合を尋ねた。

「明治時代から昭和にかけて、加治川に船を浮かべて水面から桜を楽しんだそうです」と語るのは加治川漁協の小野理事。当時、加治川の堤防には6千本の桜が植えられ、「長堤十里世界一」と言われるほどの全国にも知られる桜の名所だった。十里といえば約80㌔ほどだが、それが誇張した表現だとしても川沿いに延々と咲き誇る桜を船上で眺めながら加治川をゆっくりと下る風雅な人々の姿が想像できる。

しかし、暴れ川の一面もある加治川は1966年、67年に2年連続で集中豪雨で堤防が決壊、その大水害を契機に大規模な治水工事が行われ、河川改修とともに桜が連(つら)なる堤防も失われた。

「加治川は天井川で水害も多かった」と小野理事は加治川の歴史を振り返りながら暴れ川の一面を語る。天井川とは川底が周辺の平地よりも高くなって、川が氾濫した時に川に水を戻しにくい川のことをいう。一方で「新発田城が攻められたときは、堤防を切って川水を氾濫させて城を守るように設計されているんです」と小野理事は加治川は新発田城の外堀の役目を果たしていたと説く。

加治川は正の面でも負の面でも郷土の歴史に重要な役割を果たしてきた。その負の面を最小化しようと治水工事を進める一方で、全国に誇る桜堤が失われ、魚影が薄くなっていくという新たな負の面も生み出した。正と負、光と影が常に交錯する加治川を「愛される河川」として未来につなげようと加治川漁協は厳しい財政状況の中、活動を続けている。

「70年代に入ると頭首工が2か所できた。魚が遡上できるように魚道も設置したのですが、あまり機能していなかった。頭首工を管理する北陸農政局に要望して、魚が遡上しやすい魚道に改良したもらったんです」と小野理事は魚影を濃くするための取り組みを説明する。その効果あって、魚道を通ってサクラマスが遡上してきたという。

大正初期に建設された加治川の水門
大正初期に建設された加治川の水門。農業用水の確保や洪水から家屋や農地を守った。土木学会選奨の土木遺産に認定されている

桜が咲きサクラマスが上る川に

「当時は、水温が安定している地下水を利用したサケやマスのふ化事業が成功して、加治川を遡上するサケやサクラマスの数も多く、漁獲量も多かった。獲れすぎるくらいでしたよ」と小野理事は語った。だが、ふ化事業を担う組合員の高齢化が進み、5年前に事業を廃止した。最盛期で約200人いた組合員も半数の100人ほどに減少した。そこで、「理事2人の推薦があって役員会で承認されれば、地域住民なら誰でも組合員になれるようにしたんです。釣り愛好家も組合員になれるので、毎年何人か若い人たちが組合員になっています」と組合員の高齢化に歯止めをかけるためにできるだけ門戸を広くした取り組みを小野理事は説明する。

 自前のふ化事業を廃止したことで、増殖事業を継続するために他漁協から稚魚を購入しているがその購入費の負担も大きい。その費用を少しでも賄おうと、8年前に初めてサクラマス釣りを年券2万円で一般に開放、100人の募集定員に150人ほどの応募があり、抽選するほどだったという。

 加治川漁協自体でもサクラマスを刺し網で採捕して運営費を確保しようと尽力している。今年は60匹を採捕、漁協の独自ルートを通じて1キロ6千円で販売した。「加治川のサクラマスは脂がのって美味しいので、顧客の皆さんは楽しみにしている」と小野理事は評判も良いと話す。漁獲量を増やして多くの人に加治川のサクラマスを味わってもらいたいと思っているが、「そこまでサクラマスが川にいないのが現状」という。

 一方で、「桜の川」は蘇りつつある。89年に国の「桜づつみモデル事業」に認定され、加治川の桜並木の復元が進められてる。春になると植樹された約2千本の桜が咲き誇り、加治川の堤防を桜色に染める。川面をなでるように吹く春風が桜の花を揺らし花びらを散らす、その典雅な風景を楽しもうと多くの人が加治川に足を運ぶようになった。

加治川の副堤に植えられた桜
加治川の桜並木

加治川の桜のつぼみが開花して堤防を桜色に染めるころ、サクラマスも遡上してくる。サクラマス採捕の解禁期間は例年3月16日から5月31日で楽しみにしている釣り人も多い。また、加治川漁協が採捕して販売するサクラマスも「待っている人が大勢いて、獲れ次第、順番に販売していくんです」という。加治川の「桜とサクラマス」の季節を待つ人たちは多く、今でも桜の咲く時期の加治川は賑わう。

 その「愛される加治川」をどのように未来に残していくか。加治川漁協は、加治川の生態保護の維持管理に努めているが、その管理に漁協の負担も重い。放流事業を継続するだけでもかなりの負担で遊漁料の売り上げとサクラマスの販売だけでは「四苦八苦ですよ」と小野理事は苦笑する。

自然の恵みを育てるために

「人も活動資金もないのが漁協の現況です。理事など役員は無報酬で活動しているんです」と小野理事は漁協の厳しい状況を語る。今後とも役員一同共通認識を持ち、活動するのは「子供時代に経験した川への想い」という。

「家の前の堤防を越えれば川がある。裸になって魚捕りをよくしていた。30センチ以上のアユもよく捕れた。投網をする大人の後をついて歩くのがコツで、投網から逃げて石の陰に隠れているアユをヤスで突くんです。ほかにも、アユは同じ場所を何回も回遊する習性があるから、アユの通り道に狙いを定めて、アユが通ったところを竿に付けた針で引っ掛けるんです。捕ったアユを家に持ち帰って母親に焼いてもらうのが楽しみだった」と小野理事は子供時代を楽しそうに振り返り当時の様子を語る。

一方で、漁協の経営努力だけで「愛される加治川」を未来に残すことは難しいと冷静に考えている。「漁協の事業は自然の恵みを育成していくことにもなっている。自然保護の観点からも行政の支援は必要」と話し、特に「義務放流は漁協への負担が大きく支援策が必要ではないか」と力説する。

 「加治川の川底は泥が堆積しているところもあって、重機を入れてできるだけ砂に変えていき、魚が住みやすい環境に変えていきたい」とも話すが漁協の体力だけでは難しい。他にも、「自前のふ化場を復活させてサクラマスを増やしていきたい。そのためにも、サクラマスを採捕する刺し網漁ができる後継者を育成したい」と、やりたい事業は枚挙にいとまがない。だが、どれも漁協単独では資金面でも人材面でも厳しく、「とにかく人も資金もない状態」と小野理事は厳しい状況を明かす。

 それでも希望はある。流れが穏やかで子供が川遊びをしても危険が少ない川瀬を「天然プール」と名付けて、多くの地域住民に親しまれている加治川の人気スポットがある。夏になると多くの家族連れが河原でキャンプを楽しんだり、川遊びを楽しんでいる。以前は「知る人ぞ知る穴場スポット」だったが、SNSなどで情報が拡散され、毎年、多くの人が「天然プール」に訪れて加治川に足を入れている。「愛される加治川」が多くの人たちのなかで共有されれば今後、「川の恵みを育成する事業助成」への理解も広がり、行政の支援を得やすい環境へと繋がっていくはずだ。そのためにも、「愛される加治川」を未来につなげようと加治川漁協は厳しい状況下で力を尽くしている。

加治川の天然プール入口
加治川の天然プール入口。川遊びの注意を促す看板も設けられている
加治川の河原
天然プールの河原は広く、キャンプやバーベキューを楽しむことができる
川遊びで人気スポットの加治川

川の流れが穏やかで川遊びを楽しむ家族が多く人気スポットになっている

【新発田市に来たらこれ食べなっせ】

●小野理事のオススメ

「次郎八のランチ」

次郎八(新潟県新発田市御幸町/和食・和食レストラン) – Yahoo!ロコ

フィッシュパスは川を囲んで、釣り人漁協地域社会を結び、豊かさと賑わいを提供します。

NEW PARTNERSHIP
新提携

ご利用いただける河川が増えました!

PICK UP
ピックアップ

TOPへ
アプリをダウンロード
遊漁券を買う(漁協一覧へ)
FISH PASS アプリ

ダウンロードはこちらから

App Storeからダウンロード
Google Playで手に入れよう
Close
search star user home refresh tag chevron-left chevron-right exclamation-triangle calendar comment folder thumb-tack navicon angle-double-up angle-double-down angle-up angle-down quote-left googleplus facebook instagram twitter rss