第2弾:川釣りは趣味なのになぜ?法律がある〜コモンズの悲劇編〜
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Toggleレジャー・趣味として川釣りは特異
一般的に釣りはレジャー・趣味といわれます。しかし、レジャー・趣味であるものの、法律・規則があるという点で特異な存在です。具体的には、スポーツ、ハイキングや登山など一般的なレジャー・趣味には、競技ルールやマナーがありますが、それに反した行為をしても法的に罰せられることはありません。また違反した場合でも、非難や仲間の注意は受けますが、法で罰せられることはないです。
しかし、釣りは、趣味そのものの自体、つまり「魚を採る」という行為が法律によって規制されています。その点で非常に特異なレジャー・趣味であります。法律や規則で規制されているレジャー・趣味は、日本において釣り以外に該当するものはありません。
前回は、実際に、川釣りに関してどのような法律・規則にどのようなものがあるか紹介しました。そして、主に4つ、1)漁業法:第5種共同漁業権、2)水産資源保護法、3)内水面調整規則、4)遊漁規則を体型的に整理して紹介しました。(バックナンバー:第1弾:川釣りは趣味なのになぜ法律がある?〜法律編〜)
今回は、なぜ釣りには、法律、規則があるのでしょうか?その理由を紐解いてみます。
なぜ法律・規則が必要なのか
釣りには、なぜ法律・規則が必要であるのか、その理由は主に2つあります。1つ目は、前提として、魚は「無主物」、つまり誰のものでもないということです。漁協が購入した放流魚でも、一旦「公共の場」である川に入ってしまえば、誰もの物でもなくなります。
2つ目は、海や川、湖、沼は基本、「公共の場」であり、その場所で、漁業(漁師)と遊漁(釣り人)が、多少の道具の差はありますが、釣る捕るという意味においてほぼ同じ行為をしています。そのため、トラブルが起きやすく、何らかの調整をしなければなりません。
誰のものでもないということと、漁業と遊漁の間でトラブルが起きやすいという理由から、ある程度の強制力のある法律や規則が必要になるということです。
なんとなくは分かりますが、しかし規制、罰することまでしないといけないか、ピンときません。そこを知るには、あるキーワードが重要な意味を持っています。それは「公共の場所」です。釣りは「公共の場」で行う行為だからです。
川は「コモンズの悲劇」に直面している
「コモンズの悲劇」という言葉があります。私の中学2年生の息子が好みそうな言葉ですが、これは歴とした経済学用語です。「コモンズの悲劇」はTragedy of the Commons、「共有地の悲劇」とも訳されます。意味は、共有地は多数の利用者によって消費され、その消費が、自然の再生能力を上回った時、その共有地は荒れ果てる、です。
川は「公共用水面」であり、つまり「公共地=コモンズ」にあたります。川を適切に管理する人がおらず、ルールが守られていない漁場や釣り場は、まさに「この悲劇」に直面することになります。
このように、川は「コモンズ(共有地)の悲劇」に直面する危険があり、絶えずその危機に晒されている、ということです。
地球上の水で川魚が棲める場所は0.01%
地球の水の量を100とした場合、川や湖、沼の水量はたった0.01%しかありません。そのわずかな領域で、かつ限定された中でしか魚は棲めない状況になっています。
そう考えると、多くの利用者に消費されるとすぐに枯渇してしまうことになります。さらに、ルールを破って思うがまま魚を採ると、先程の「コモンズの悲劇」におちいることは容易に想像がつきます。
悲劇に直面しないために
川の釣りはまさに「コモンズの悲劇」に直面しています。現在の日本の川の環境状況下において、渓流魚やアユなどの川魚の再生能力は低いです。にも関わらず、釣り人の需要は非常に高い状況です。この状況を回避するためには、どのような方法があるのでしょうか。
やはり法律と漁協が必要
経済学的アプローチからの解決方法は明確です。それは、共有地を共有地でなくせば良いのです。すなわち、共有地は、オープンアクセス(誰でも利用が可能)ということが、共有地たる理由です。このオープンアクセスができないように管理すれば良いだけです。
つまり、責任者を置いて権利を与えることです。具体的には、漁業権を設定し、管理すれば良いのです。その漁業権を与えられ、実際に管理しているのが、漁業協同組合になるわけです。ある漁協の組合長は、我々は川の守り人であると言っていました。川魚という限られた貴重な資源を守っていくには、ある程度の法律と規則が必要であり、それを責任もって行う組織、人が必要であるということです。
法律ってうまくできている
今回は、経済学的アプローチから法律の意義を説明させて頂きました。川漁師(漁業)がほぼ存在しなくなり、遊漁とのバランスにおいて、漁業法が“今”にフィットしていない面もありますが、法律ってうまいことできている、というのが感想です。
川では多くの利害関係者がいます。釣り人、漁協、養殖業、水産課だけでなく、工事土木会社、電力会社、調査会社、学校教育、地域商店、住民、県・市・町の観光行政があります。国の省庁でも、国交省、環境省、文科省など様々な関係者が入り乱れている中で、漁業法と水産資源法は、限られた水産資源を守ることにおいて整備された法律だと思いました。
あの川の未来を
最近、釣り人と漁協と接することが多くなり、様々な意見を聞くようになりました。その中で、漁協からは「困った釣り人がいる」、釣り人は「漁協は川のことを分かっていない」などの声を聞くことがあります。一理あるところもありますが、おざなりな言い方ですが、相互理解がないと、このような事になってしまいます。しかし両者とも、共通している考えは、生き物の多様性に溢れ、魚が生き生きと泳ぐ川です。
川が豊かになることを願う両者が、川釣りを考え直すきっかけになればと思い、今回のテーマを取り上げてみました。趣味としての川釣りの特異性、限られた資源が枯渇しないように法律規則が存在し、それを守る人がいて、その中で魚との出会いを楽しむ人がいる、それをコモンズの悲劇という言葉を使って説明しました。
フィッシュパスは「あの川の未来を」を理念に、これまでとは違ったアプローチで、川と向き合っていきたいと考えています。そして、釣り人と漁協、そして地域を結びつける橋渡しとして、少しでも役に立てたら良いと思います。
バックナンバー
第1弾:川釣りは趣味なのになぜ法律がある?〜コモンズの悲劇編〜
参考文献
金田禎之(2016)「新編漁業法のここが知りたい」,成山堂書店
櫻井政和(2015)『我が国と米国の「釣り施策」』,機関誌水産振興
中村智幸(2016)「内水面漁業って、なに?」,機関誌水産振興
水産庁ホームページ https://www.jfa.maff.go.jp/
水産庁『水産白書 平成30年版』,2018
フィッシュパスは川を囲んで、釣り人と漁協と地域社会を結び、豊かさと賑わいを提供します。
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