放流に子どもや女性参加で川への親しみ・興味を促す〜馬渕川漁業協同組合〜

2023/06/06

馬渕川漁業協同組合

 青森県三戸郡南部町(なんぶちょう)の馬渕川(まべちがわ)漁業協同組合(以下「馬渕川漁協」)のアユ種苗放流は5月16日、馬淵川(まべちがわ)下流、名久井橋(なくいばし)のたもとで行われた。

 昼過ぎ、馬渕川漁協の組合員の方々が、放流場所に集まってきた。
 気温は19℃、川風が少し強いものの、青空が広がり、オオヨシキリのさえずりも辺りに響き渡る。川水は、前日の降雨の影響で濁り気味だ。
 やがて1台のトラックが到着。青森県の西南部、日本海に面した西津軽郡鰺ヶ沢町(あじがさわまち)からアユの稚魚を載せ、約150㎞の道のりをはるばるやってきた。
 トラックから2人が降りてくる。その着ているポロシャツの背中には「青森・赤石川の金鮎」とプリントされている。「金鮎(きんあゆ)」とは、鰺ヶ沢町を流れる赤石川(あかいしがわ)に生育するアユの魚体が、金色を帯びていることにちなんでいる。
 「よく、数を確保できたね」
 馬渕川漁協の助川正雄(すけがわまさお)組合長が、運んできた鰺ヶ沢町の職員に声をかけると、
 「ええ、大変でしたけど、なんとかご希望に応えることができました」
 との明るい声が返ってくる。
 この何気ない短い会話には、深い意味が含まれていた。
 というのは、青森県内でアユの種苗生産をしているのは、鰺ヶ沢町だけ。そこの養殖施設が、昨年(2022年)8月の大雨で被災し、成魚約5万匹のうち約3万匹がへい死、流出したのである。
 そのため、今年の供給が危ぶまれていたのだが、養殖関係者の努力で、なんとか例年並みの供給量を確保することができたのである。
 運ばれてきた稚魚は、体長6~7cmのものが60kg、数にして約1万匹。
 「水温は、大丈夫?」
 助川組合長が放流前に、川の水温を測る人に声をかける。
 「16.1℃ですから問題ありません」
 これもまた、放流の際に大事なことで、川の水温が低すぎると、アユの稚魚の生存率が悪くなってしまうようだ。
 放流は、トラックの荷台の水槽から稚魚がバケツに移され、集まった組合員が川岸まで並んで、バケツリレーで始まった。

 稚魚の放流事業といえば、子どもたちが川に流している様子がよくメディアで取り上げられるが、この日は大人だけの参加だった。
 「これまで子どもたちを参加させたことはない。この馬淵川の本流は流れが速いから」(助川組合長)

 馬淵川は、岩手県下閉伊郡(しもへいぐん)の袖山(そでやま/標高1,215m)に源を発する一級河川。県境付近で安比川(あっぴがわ)を取り込んで青森県に至り、南部町付近でその流路を北東に転じ、八戸市内を流れて太平洋に注ぐ。
 その流路延長は142km、流域面積は2,050㎢。青森県側流路では山地区間が短く、三戸盆地や八戸平野を潤し、この地方で盛んなリンゴ、サクランボ、野菜等の畑作物を育んできた。
 馬渕川漁協の管轄は、南部町から河口までの下流部約30km(中流部は三戸漁業協同組合、上流部は南部馬淵川漁業協同組合と上馬淵川漁業協同組合がそれぞれ管轄)。
 釣り場としては良好で、魚影は濃いという。ただし、雨が降れば1週間ほど濁りが消えないのが、この川の特徴でもある。

 馬渕川漁協が行っている放流事業は年2回。
 「この次は安全な支流で行うので、小学生にも参加してもらって、ヤマメとイワナを放流する。その際は、専門家が子どもたちへ川のことや棲息する魚のことを教え、タモをつかって川の生き物を捕獲する体験学習も行っている」
 助川組合長は「子どもたちが、川に親しんでもらいたい」という言葉を何度か口にした。
 川遊びは危険だということで、子どもたちが川に寄りつかなくなって久しい。そのことで、川を理解する大人が減り、釣り人も減少したという見方もある
「だからこそ、できるだけ機会をつくって、次世代につなげたい」と、助川組合長は力説する。

【助川正雄組合長】

 その一方で、「うちらも歳をとってきているし、いくら頑張っても、やはり限界がある」とも打ち明ける。
 ピーク時には350人いた組合員が、今では3分の1以下の97人にまで減っていて、「高齢化で毎年10人ぐらいずつやめていっている」のが現状なのだ。
 これに対して、南部町猟友会の会長職にもある助川組合長が取り組んでいることがある。
 それは、ここ数年、放流事業に猟友会の仲間を招いている。
 この日は八戸市の女性が参加し、助川会長からアドバイスを受けて、放流を体験していた。
「いろんな人たちに川のことを知ってもらい、できれば仲間になってほしい。山ガールとか狩猟ガールとか、今どきの女性は積極的に自然を体験しようとしている。今日のことをスマホで動画を撮って、友達なんかに発信したり、動画サイトに掲載したりして、どんどん拡散していってもらいたいんだよ」
 67歳の助川組合長の思考は、若くて柔軟だ。
 助川組合長は会社経営者でもあり、経営者ならではの時代の読み方なのかもしれない。
 どこの内水面漁協も頭を悩ます高齢化・組合員減少問題。その対策として、潜在層へアプローチをかける助川組合長の発想は、たいへん示唆に富んでいた。

【助川組合長がアドバイスして八戸市の女性が放流を体験】

 この日、放流場所そばの中洲で、ご老人が木造の小さな川船を操り、何かの作業をしている光景に、運良く出くわした。
 その様子を指差して、助川会長は語る。
 「あれはたぶん、中洲の小石を川底に沈めて、ウグイの産卵床をつくっているんだろう。昔はこの時期になると、よくこんな光景が見られたものだけど、今は珍しくなってしまったよ」
 かつては、捕獲したウグイを洗いや刺し身などに調理して食べたものだというが、その川魚の食文化も今はもう廃れてしまっている。
 川の文化・風土の完全復活とまではいかないだろうが、一つでも二つでも、なんらかの形で継承されることを願って、南部町を後にした。

◇周辺の主な観光スポット・施設
【農産物直売施設 名川チェリーセンター】
 国道4号線沿いにある施設で、旧名川町(ながわまち)時代にできた地元農産品を販売する産直所。特にこの地方は果物の産地として有名で、文字通りチェリーはもとより新鮮なモモ、ナシ、リンゴが手に入る。特産の食用菊「阿房宮(あぼうきゅう)」の干し菊も年間を通して販売されているほか、りんごジュース、漬物などの加工品も多彩で豊富。(三戸郡南部町虎渡西山27-1、☎0178-75-0166)
https://www.umai-aomori.jp/shop/sanchoku/sanchoku05/cherrycenter.html

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