【書籍紹介】イギリスのサクラマス『釣魚大全Ⅰ』アイザック・ウォルトン

2018/02/14

概要

筆者と出版

1653年に出版された、イギリスの伝記作家アイザック・ウォルトンの随筆(筆者の体験や知識をもとに、感想や思索をまとめた散文)である。釣り師や猟師、鷹匠との対話形式で、イギリスの自然を描写しつつ、詩歌をまじえて、古き良きイギリスの牧歌的な世界観を描いている。釣りに始まり、牛の乳の絞り方など多岐にわたるが、主な内容はイギリスの魚の生態や釣り方や、釣り具のことが語られている。マスの生態や増殖方法、ミノー、フライの作り方に関しては章を使って説明されている。

 

文学的評価

文学的にも非常に上質の散文として,不滅の文学とされており、聖書に次いで読まれる本とも言われている。英文科の授業教材に使っている大学もある。ジョン・ダン、ハーバート・ジョージ・ウェルズ、フランシス・ベーコン、メルカトルなど、英文学や世界史をかじった人には知った登場人物がでてくる。日本でも多くの翻訳家によって、日本語訳され出版されている。

第二版

1676年にウォルトン自らの増補とイギリスの詩人・作家でもあるチャールズ・コットンの筆になる第二部が出版された。

ちなみに、ヨーロッパにおける釣りに関する最初の書籍は、1496年出版された狩猟の本で、バーナーズという修道女が、釣りの手引きを書いたものとされる。

 

出版された時代(イギリスと日本)

今(2019年)から366年前その時期は、筆者が生きたイギリスでは清教徒(ピューリタン)革命がおこり、王制が復活した時期である。a一方日本では、明暦の大火で江戸の大半が消失し、水戸藩の水戸光圀が『大日本史』の編纂に取りかかった年である。

イギリスのサクラマス(フォーディッジ・マス)

第4章において、マスの性質および繁殖の話と、その釣り方について語られている。日本においても九頭竜川を始め、赤川、北上川、荒川(新潟県)、黒部川(富山県)、手取川(石川県)、千代川(鳥取県)など日本各地にサクラマスの遡上で有名河川があるが、イギリスにおいてもマスが遡上する河川がある。

この書籍でも、ノーサンバーランドのオオマスや、海につながっているテムズ川やイッチン川に遡上してくるマスについて紹介されている。その中でも、フォードウィッチ地区を流れる川に遡上するフォーディッジ・マスについて、次のように書かれている。「私が思うに、このマスは、海から川へ入るべき時、正確な日を知っている。海で9ヶ月間、餌をとって過ごし、フォーディッジ川では3ヶ月の間餌を断ち、川底でじっと産卵期を待つ」

もっとも驚いたことは、その町の人々は、このフォーディッジ・マスを釣り始める時期、つまり解禁日を厳格に守っていることである。現代の日本でいう「漁業規則」に相当する、魚種・漁期を明確に定めたルールである。またその住民が、自分たちの住む地域を流れる川がどこよりも優れたマスを輩出していることに誇りをもっていることであった。

九頭竜サクラマス始め、現在日本各地が行っていることを、まさに約400年前にフォーディッジ川を流れるこの地域で行っていたということである。もちろんここでのフォーディッジ・マスが、タイセイヨウサケかブラントラウトなのかは定かではないが、しかし、本記事において、「イギリスのサクラマス」と表題にしたのは、イギリスのこの地域において、社会的観点で、日本のサクラマスと同等の存在であると思ったからである。

フォーディッジ・マスの聖地として、川と共に生きることを地域全体が取り組んでいたのである。多くの釣り人が、日本の川釣りに対する意識は欧米にはるかに劣っていると言うが、歴史的にも、経済的にも社会的においても、違いを痛感させられた内容であった。

川を守り続けることの難しさ

最後に、今ではこの川は寂れ、フォーディッジ・マスの遡上も見られないようである。それほど生態系豊かな川の維持は困難で、些細なことで簡単に、川は荒れ果ててしまうということである。川は繊細でもろいものである。フィッシュパスの課題は、川の守り人である内水面漁協と、それと一体の地域、そして自然環境を結びつけ、持続可能な生態系豊かな川を実現させることである。この理念を着実に安定的に実現させる為、フィッシュパスは、やることはなにか絶えず問わなければならない。アイザック・ウォルトンの『釣魚大全』は、多くの気づきとあらためて本来の願いを誓わせる本であった。

 

イギリスのマス釣りに関する書籍紹介(主にフライフィッシング)

『イギリスの鱒釣り – 川とともに生きる』フランク ソーヤー (著),‎ 倉本 護 (翻訳)1990晶文社

『フランク・ソーヤーの生涯―伝説の鱒釣り師』フランク ソーヤー (著),‎ シドニー ヴァインズ (編集),‎ 能本 功生 (翻訳) 1991平河出版社

『イギリスの釣り休暇』J.R. ハートリー (著),‎ J.R. Hartley (原著),‎ 永井 淳 (翻訳),‎ 芦沢 一洋 (翻訳) 1997早川書房

『釣り師の休日』 エドワード グレイ (著),‎ W.B. イェイツ (著),‎ H.T. シェリンガム (著),‎ ジョージ オーウェル (著),‎ 1997 角川書店

参考文献

『釣魚大全Ⅰ』アイザック・ウォルトン(著) 飯田操(翻訳)1997平凡社

『世界大百科事典第2版』1950 平凡社

『日本大百科全書』 1994小学館

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