【夏休みの課題特集】『クニマスは生きていた!』(読書感想文編)

2018/08/22

【夏休みの課題特集】『クニマスは生きていた!』(読書感想文編)

今年の小学5・6年生向け「夏の読書感想文の課題図書」に『クニマスは生きていた!』がある。

この夏、全国の多くの5・6年生がこの本を読み、様々な感想を文にしたためたと思われる。

クニマス(国鱒)

クニマスとは、サケ目サケ科に属する淡水魚で別名「キノシリマス」という。体長は平均で25〜30cmで大きいものは40cmほどになる。全体的に黒っぽく、「キノシリ」とは木の尻のことで、囲炉裏の薪の燃えカスに似ていることから、その地方では「キノシリマス」と呼ばれていた。一生を湖で送り、同じサケ科のヒメマス(ベニマスの陸封型)に似ている。普段から湖の深いところに生息し、湖底深く(40m〜200m)に産卵するため、サケ科の中でも変わった特性を持っている。

田沢湖

秋田県 田沢湖は日本最も深い湖(最深423m)で、その透明度から「神秘の湖」と呼ばれ、クニマス、サクラマス、イワナ、コイ、ウグイ、ウナギなど20種類の魚が生息していた。しかし、1940年(昭和15年)に、国策として田沢湖は水力発電と農業用水のダム湖とするため、近くを流れる玉川温泉水を含む玉川の水が引き込まれた。以前の田沢湖の水はpH(ペーハー)6.3であったが、玉川からの水により、pH1.2という強酸性水になった。レモン汁がpH2.5、 それよりも酸化が高い胃液がpH1.5であるため、相当酸化度が高い水である。それにより魚がすめない「死の湖」となり、田沢湖にしか生息しない世界で唯一の希少種であるクニマスも、1940年の確認を最後に絶滅したと思われた。

それから70年

本書の主人公である久兵衛さんが、絶滅前にクニマスが日本の何箇所かに発眼卵が送られたことを知る。クニマスの卵が各地に分譲された地元の文献も見つかった。「クニマスがどこかの湖底で生き続けいていることを願っている(本文より)」と、そこから久兵衛さん親子による全国各地へのクニマス探しが始まった。また、1995年に「クニマス探しキャンペーン」という企画を立ち上げ、クニマスを発見した人は懸賞金100万円(のちに500万円)とし、大々的に全国に探索を呼びかけた。そして久兵衛さんはじめ魚類学の大学教授も入り、全国から送られてくるクニマスと思しきものの鑑定を行った。計13体が送られてきたが、いずれもクニマスと判定されるものはなかった。そしてこのキャンペーンも3年で打ち切られた。なかば諦めの中約10年がたった。しかし、2010年12月、富士山に近い山梨県の西湖(さいこ)で、絶滅したと思われたクニマスの生息が確認された。絶滅したと思われる1940年から70年後のことである。世紀の発見としてテレビ紙面等で大きく取り上げられた。クニマスがなぜ500キロも離れた湖で生き延びていたのか、多くの人が驚かずにいられなかった(本文より)。

平成版・釣りキチ三平『地底湖のキノシリマス』

2002年、漫画家の矢口高雄氏による「平成版・釣りキチ三平」の第1話の内容は、田沢湖のクニマスであった。話は、三平が鮎川魚紳(三平の釣り仲間)さんに連れられ、田沢湖でウグイをミャク釣りするところから始まる。三平は、祖父の一平(故人)が、田沢湖が温泉水によって侵される前に、クニマスの卵を密かに移植していた話を思い出す。一平が移植したと言われる地図にも載っていない湖に出かけ、そこでフライでクニマスを釣り上げるという物語になっている。単行本として出版されたのは2002年で、実際に山梨県の西湖でクニマスが発見されたのは8年後の2010年である。当時、「釣りキチ三平の話がリアルに起きた」と大きな反響をよんだ。

 田沢湖への里帰りのために

漁業関係者だけでなく、地元、自治体でもクニマスが話題に上がり、クニマスの里帰りを実現させるための様々な動きが生まれ始めた。当時、クニマス自体の生態は謎のままであったため、山梨県水産技術センターによる研究が進められ、現在では人工授精からふ化、養殖化が可能になった。しかし、未だ田沢湖はクニマスが棲める環境ではなかった。1991年に稼働した酸性水中和処理施設によりpH5.2まで中和化され、ウグイやコイは生息できるようになった。それでもまだクニマスの棲める環境には戻っていないが(適切な水質に戻すには数十年単位と言われている)、「田沢湖に生命を育む会」、「田沢湖クニマス未来館」など地域一体となって田沢湖にクニマスに戻す活動を行なっている。

最後に

奇跡の運命を辿ったクニマスの田沢湖への里帰りの実現を願うとともに、身勝手により多くの生命を絶滅させてきた我々に「いのち」の意味と重さを考えさせる。その土地・知名の名の付いた生き物はいる。この本を読んだ子供は、自分たちの生まれ育った所にも、小さな命を繋いで生き延びているクニマスのような魚や生物がいるのではないかと思うはずである。そして、その地域固有の生き物を見つけたとき、関心と愛着の気持ちが芽生えるはずである。小学生用の課題図書ではあるが、「幻の魚」を追い求める話として我々大人にとっても非常に興味深い本である。高学年のお子さんを持つ方は、今年の読書感想文の本は何にしたか聞いてみてはいかがか。

参考文献

「クニマスは生きていた!」池田まき子・著 汐文社2017   1620円(税込)

平成版・釣りキチ三平 地底湖のキノシリマス」矢口高雄・著 講談社2002年

田沢湖クニマス未来館 パンフレット 秋田県仙北市

フィッシュパスは川を囲んで、釣り人漁協地域社会を結び、豊かさと賑わいを提供します。

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