【書籍紹介】魚は痛みを感じるか?

目次
Toggleこの本は、私たちが釣っている「魚」は痛みを感じるか、という問題提起から始まる。それを様々な科学的手法で解明し、「魚は痛みを感じる」という事実を元に、現代の水産業における問題を扱っている。
目次
第1章 問題提起
第2章 痛みとは何か?なぜ痛むのか?
第3章 ハチの針と酢−魚が痛みを知覚する証拠
第4章 いったい魚は苦しむのか?
第5章 どこに線を引けるのか?
第6章 なぜこれまで魚の痛みは問われなかったのか?
第7章 未来を見据えて
人が魚に抱く「痛みの可能性」
「魚は痛みを感じるか」という事については、釣り人は言うに及ばず、魚と接する漁師や養殖業を営むもの、ひいては魚の消費者に至るまで広く人間に語り掛けているテーマである。人間は、例えば家畜である牛や豚、鶏が痛みを感じていると認識しているが故に、その飼育方法やと殺の在り方について、倫理的な面から、出来るだけ苦痛を与えないような方向で改善を重ねてきた。それは、実験用のモルモット、野生の動植物の保護など幅広い分野で、法律や規制などを制定しながら行ってきている。それでは、魚はどうだろう?
魚への愛情
「釣り人の多くは、水中に住む魚などの動物に対して愛情を抱いているがゆえに釣りをする。もとより多くの釣り人は、魚が痛みを感じている可能性を考慮して、水の外で魚を扱う時間を最小限にとどめられるような道具を使ったり、魚を素早く「安楽死」させたり、釣り針から返しの部分を取り除いて、魚のあごから迅速に、かつきれいに針をはずせるように工夫したりする。」(196頁参照)
本書は、多くの釣り人が「可能性」として考慮している、魚が痛みを感じているかについて、様々な実証実験を繰り返し、解剖学的な見地から、魚の脳の構成が人間の脳と同じように大脳皮質、小脳、脳幹を備え、記憶を掌る海馬や、恐怖を掌り、いち早く敵から逃れる偏桃体を備えていることなどから、魚は痛みを感じていると結論付けている。
動物福祉
人は、他者の苦しみや痛みに共感する。誰かがけがをしたと聞けば、殆どの人は心配し、早く痛みを取り除いてあげたいという気持ちになる。現代社会では、出来る限り痛みなどの苦痛を与えるべきではないという倫理が確立している。著者はこれを、「動物福祉」として、欧米では広く認められている権利として位置付けている。この倫理に基づく権利は、例えば日本では「動物愛護管理法」や、動物実験を行う様々な研究機関で広範囲に渡って浸透しつつある。この倫理の基本となるのが、その対象動物が「痛みを感じるか」の一点にある。
「痛み」とは何か
それでは、「痛み」とは何か?人の場合、例えば熱いものに手で触ったとき、咄嗟に「熱い」と手を引っ込める。これは、反射と呼ばれているもので、その信号は正確には、脳で認識・記憶されるものでは無い。脳で意識として認識されるのは、その後襲ってくるヒリヒリした痛み、ズキズキする痛みであり、その痛みに対して人は、その箇所を冷やすなど、痛みを緩和する対応をする。
魚の場合はどうか?
この疑問に対して筆者は、「蜂の毒と酢」を使い、魚が傷みを感じ、認識することを見事に証明して見せた。実験の詳細は、本書を読んでいただくとして、魚が傷みを感じ、それを意識として認識しているのならば、私たち人間の魚に対する応対の仕方についても考える必要がある。
人は、牛や豚などの所謂家畜や、魚など多くの動物を食べて生きてきている。それを否定しての生活は、ベジタリアンでなければ不可能である。前述したように「動物福祉」とは、人の倫理として、出来るだけその痛みや苦痛を和らげる、或いは無くしていくことが必要だという考えに基づいている。一言でいえば、魚は痛みを感じているのだから、虐待に等しい取り扱いや、殺し方は避けるべきであるというのが、本書の趣旨である。
魚を愛してやまない人へ
最終章の第7章では、これまでの「魚は痛みを感じているから、生かすも殺すも優しい扱いをすべき」という結論から、「未来を見据えて」と、今後の魚に対しての考え方、あり方を指し示している。その中で、釣りにおける具体的な実践として、返しの無い釣り針を使い、水の外で魚を取り扱う時間を最小限に留め、ラバーネット(無結節網)は、魚の皮膚を擦り剥くことが少なく、魚に与えるダメージを抑えられ、それによりリリース後の真菌感染を抑えられる。などの行為を倫理をもとに推奨している。
・釣り針にかかった魚
・キャッチアンドリリースの倫理
・釣りにおける魚の福祉の実践
・観賞魚に対する倫理
猛暑が続く2019年8月、なかなか川へ足が及ばず、家で涼んで過ごす予定の方は、本書を読んでみてはいかがですか。9月から魚と釣りへの見方が少し変わるかもしれません。
著者
著者:ヴィクトリア・ブレイスウェイト 1967年生まれ 米・ペンシルバニア州立大学教授
*本書表紙より写真引用
書籍詳細
『魚は痛みを感じるか?』
ヴィクトリア・ブレイスウェイト(著)
高橋洋(訳)
紀伊国屋書店 2012年
255ページ
Amazon:2,160円(税込)
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