山梨県西湖のクニマス館

2019/11/06

クニマス動画

前回、田沢湖クニマス未来館でクニマスについてお話ししましたが、今回はもう少し詳しくクニマスのことについて書いてみようと思います。

第1章 クニマスという魚

クニマスという魚をご存じでしょうか。世界でも秋田県・田沢湖にのみ生息した、サケ目サケ科に属する魚で、他のサケ科の魚には見られない独特でユニークな生態を持つ魚です。

普通、サケ科の魚は、川で生まれた後、川を下り、海に出てそこで大きく成長し、産卵期になると川に戻り産卵して一生を終えます。ところが、クニマスは、他のサケ科の魚にはない生態系を獲得して、百万年余りの間、田沢湖でのみ生き続けてきた大変貴重で珍しい魚なのです。

太古の昔、地殻変動により海に注ぐ川がせき止められ湖になったとき、海に下れなかったサケ科の魚の中に、一生湖で暮らすものが出てきました。クニマスもその一種でした。田沢湖が出来たのは、今から170万年~180万年前の氷河期、海に出ることが出来なくなったサケ科の魚の中で、クニマスは独自の進化を遂げ、生き延びてきました。その独自の進化とは、湖の中の生息域です。クニマスは、他の肉食魚や鳥などの外敵の及ばない深い水深に棲むことで命を繋いできました。田沢湖では、水深100~300メートル付近の深部で生息し、産卵場所は、それより浅い水深40メートルと、それでも深い場所で産卵が行われており、その一生を湖の深い場所で終えるという一生をおくることで生き延びてきたのです。

クニマスは、田沢湖周辺の地方では高価な魚として親しまれ、特別な日に食べられていました。江戸時代には、クニマスの乱獲を防止するため、漁業の権利が決まられると共に、日々どれだけとったか記録もされ、大切にされてきたといいます。

第2章 絶滅種だったクニマス

百万年余り、田沢湖の深い湖底で命を紡いできたクニマスに、突然の悲劇が訪れたのは、昭和15年のことでした。

江戸時代から田沢湖周辺の水田では、農業用水が不足していました。近くには、玉川と言う川が流れていましたが、玉川には強い酸性水が流れており、農業用水としては利用できませんでした。そんな中、この地方では凶作が続き、昭和8年は大凶作に見舞われました。また当時、この地方は慢性的な電量不足であったという事情も加わり、玉川の水を田沢湖に引き入れることで、玉川の強い酸性水を希釈し、同時に水力発電も行うという一石二鳥の計画が持ち上がり、昭和15年、その工事がなされました。

この人間の行為によって田沢湖の水は酸性化し、酸性の水に弱いクニマスは絶滅してしまいました。百万年余りの長い時間、固有の命を繋いできたクニマスと言う固有種のあっけない幕切れでした。

第3章 クニマスは西湖で命を繋いでいた

田沢湖でクニマスが絶滅する少し前、遠く離れた山梨県で初めての鱒の孵化場がつくられていました。この孵化場では、日本各地からヒメマスなどの鱒の卵を購入し、その中にクニマスも入っていました。そして孵化した稚魚を、他の鱒の魚と共に山梨県の西湖に放流していたのです。

クニマスは、湖の水深の深い所で生息し、食べ物はプランクトンや藻などです。産卵場所も水深40メートルくらいの砂礫のある場所であり、この条件が無いと生きてはいけない魚です。クニマスの卵は、全国に運ばれ孵化させて様々な湖などで放流されましたが、どれも、そこで生き延びることは出来ませんでした。唯一西湖だけが、クニマスの生存条件に合致し、結果として、奇跡的にそこで生き延びていたのです。更に、クニマスは、湖底の深いとことで生息し、産卵も水深40メートルの場所である為に、ヒメマスなどの浅瀬で産卵する他の魚とは交配せず、純血種だけが保たれていました。

絶滅したはずのクニマスが生存していたというニュースは、2010年に全国を駆け巡りました。奇跡的に生き延びていたクニマスの発見の契機になったのは、魚類学者の“さかなクン”です。クニマスのイラスト作成を依頼されたさかなクンは、全国からクニマスと似たヒメマスの標本を取り寄せた所、その中にたまたま色の黒い魚があり、「ひょっとすると」と思い、専門の研究者にその標本を送りました。そしてその研究者が、DNA鑑定や解剖学的検証を行い、その色の黒い魚がクニマスであるという事を突き止めたのです。

第4章 クニマスに会いに行きました

奇跡的に西湖で命を繋いでいたクニマス。西湖漁協では、クニマス発見までは意識することなく、ヒメマスに混じって釣れる色の黒いヒメマス(クニマス)を捕っていました。しかし、クニマスが発見されたことで漁協では、クニマスの保全に必要な西湖の水面管理や乱獲防止、調和のとれたヒメマスの放流などの様々な対策に乗り出しています。またクニマスの人工増殖の取り組み、広くクニマスの存在を知らせる為に、西湖ネイチャーセンター、所謂クニマス展示館を作りました。今回訪れたのは、そのクニマス展示館です。

この展示館では、クニマスの標本やパネルと一緒に、水槽の中で泳ぐクニマスを見ることが出来ました。クニマスの水槽は、子供のクニマスと大人のクニマス、どちらも沢山のクニマスがゆったり泳いでいました。

クニマスの顔は、下あごが突き出ていて、クニマスには失礼ながら実に不細工、歯は櫛状で、プランクトンをこしとって食べるのに適していました。「この魚が、百万年前地殻変動で海に出ることが出来なくなり、湖の中で独自に進化を遂げた、唯一田沢湖にだけ生息していた魚なのだ。」と思うと、漸く会えたという感動に混じって、感慨深いものが有りました。

クニマスは、現在もヒメマス釣りの時に混じって釣れることがあるそうです。太古の昔から、そのユニークな生態系を獲得して生き延びた魚、クニマス。そんな壮大な時間を思いながら釣りを楽しむことは、それはそれで、釣りの醍醐味でもあると思います。クニマスに限らず、様々な魚には、その地特有の伝統に彩られ、ユニークな生態系を獲得しています。そんな思いにも触れながら、ゆったりとした大自然の中で釣りを楽しむ、それは二つとない釣りの楽しみの一つではないか、そんな思いに駆られながら、クニマス展示館を後にしました。

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