母なる川よ、よみがえれ! 川の文化見直す数々のアイディア!!〜岩木川漁業協同組合〜

2023/05/26

フィッシュパス 漁協探訪シリーズ #青森編

岩木川漁業協同組合

よく人は、自然を「母なる川 父なる大地」と畏敬の念をもって呼び、その計り知れない恩恵に感謝する。津軽において、まさに母なる川のシンボルは岩木川(いわきがわ)であり、父なる大地のシンボルは津軽平野である。

岩木川は、世界自然遺産白神山地(しらかみさんち)の雁森岳(がんもりだけ/標高987m)に源を発する一級河川。弘前市西域を経て、南津軽郡藤崎町で平川(ひらかわ)と浅瀬石川(あせいしがわ)の2大支川を集めて北上し、やがて十三湖(じゅうさんこ)へ注いで、日本海へと流れ込む。その流路延長は本川で102㎞、支川の数は100にのぼる。これらの川は、津軽平野を含む流域面積2,535㎢の大地を潤し、リンゴと米に代表される数多の農産物を育んできた。

 しかし、その岩木川が今、本来の姿を失っている。それは長引く濁流問題である。くすんだ緑色の濁水が、いつまでたってもきれいな水に戻らないのだ。

【2023年4月下旬の目屋渓谷(めやけいこく)】

 発端は、昨年(2022年)の集中豪雨だった。
 「去年の6月から8月にかけて数回の集中豪雨があり、その影響がいまだに続いている」と、岩木川漁業協同組合(以下「岩木川漁協」)の村上英岐(ひでき)組合長は、振り返る。
 「その豪雨で、ダムの周囲の山から流れ込んだグリーンタフ(緑色凝灰岩)の粒子が、水を汚している」と、事務局の小山純夫(おやますみお)さんが、濁水の原因を明かす。
 ここで言うダムとは、岩木川の上流部にある「津軽ダム」のこと。このダムは、かつての「目屋(めや)ダム」に代わってその下流60mに建設され、2016年に竣工、翌2017年から運用が開始された。その高さは97.2m、貯水池容量は目屋ダムの3.6倍の規模を誇る。
 「この雪解けの時期、濁っている水をどんどん放流して、春の雪解け水に入れ替えようとしたが、それもうまくいっていない」
 佐々木潔(きよし)副組合長も、問題の長期化を憂える。

【2023年4月下旬の津軽ダムの貯水池。貯まった水はくすんだ緑色】
【2020年9月初旬の津軽ダム。まだ水は青々としている=岩木川漁協提供】

 この川水の濁りは、もちろん棲息する魚にも悪影響を及ぼしている。
 「アユのことで言えば、アユを釣るには石を釣れ、とよく言われるように、アユは石についた苔(こけ)を餌にしている。その苔は光合成で生育するわけで、今のように川が濁っていれば、太陽の光が水中に届かず、苔も育たない」(村上組合長)。このため川には、釣り人が寄りつかないという。昨年は集中豪雨以降、釣り人はほぼゼロの状態で、遊漁券の販売もままならず、漁協の大きな収入源を失った。
 この濁流問題解決のために岩木川漁協では、これまで津軽ダムの管理事務所と協議を重ねてきた。最近では、異物を取り除くスクリーンの設置も検討されているが、施工時期が決まっておらず、問題解決の見通しはたっていない。

 苦境に立たされている岩木川漁協だが、この先、望みがないかと言えば、そうではない。白神山地の世界自然遺産地域の入り口付近までの上流域では最近、禁漁が解除され、魚釣りができるようになった。そこまで遡ると、水はよく澄んでいて、イワナやヤマメの釣果が大いに期待できそうな渓相である。
 周辺にはアウトドア施設の「アクアグリーンビレッジANMON」があり、釣り客の増加も見込まれる。村上組合長によると、津軽ダムの上流・下流にある支流でも、充分に釣りが楽しめるという。

【中央が村上組合長、右が佐々木副組合長、左が事務局の小山さん】
【世界遺産地域入口から下流の暗門大橋付近は禁漁解除で釣りが可能となった】

 漁協の要の活動である種苗放流は、今年も例年通り行われる。6月にはアユ30,000匹、ヤマメ10,000匹、サクラマス3,000匹、イワナ10,000匹、9月にはフナ2,000匹を、地元の保育園、幼稚園、小学校などにも参加を呼びかけ、稚魚を放す予定だ。

【ヤマメの稚魚放流。2022年6月初旬=岩木川漁業協同組合提供】

 岩木川漁協の管轄域は、岩木川の源流から十三湖までの全長102kmで、その距離は非常に長い。それだけに、本来であれば、魚種は多彩で、いろいろな釣り方が楽しめる。
 下流域では十三湖が汽水湖なので、ボラやスズキがいるほか、ナマズやコイ、フナ、ウグイ、カワヤツメ、モクズガニも棲息する。平川と合流する中流域はアユが中心、上流域になるとイワナ、ヤマメ、カジカといった渓流魚である。

 岩木川漁協の現在の組合員数は174人で、ここ3年ほどで急激に減少したそうだ。ピーク時の昭和35年~40年には、約2,900人がいたというから驚かされる。ご多分に漏れず、高齢化が組合員減少に拍車をかけているのだ。
 濁流問題といい組合員の高齢化に伴う減少といい、漁協を取り巻く環境は厳しく、マイナス要因ばかりが目立つ。

 ところがどうして、村上組合長は、すこぶる前向きなのである。
 「『川の駅』っていうものを計画している。組合員が岩木川で獲ったウグイやアユ、ヤツメウナギを焼いて食べられたり、流域で採れた山菜を売ったり、あとは子どもたちにカジカ捕り体験をさせてもいいし……」
 これには事務局の小山さんも乗り気で、「水槽を置いて、岩木川の魚類も展示したい」と、意気込む。
 「それから、今年は白神山地の世界自然遺産登録から30周年にあたるので、弘前観光コンベンション協会と一緒に、『アユの観光梁(やな)』をやろうという企画も出ている。大規模にはできないけど、川の一部に梁をこしらえて、捕れたアユを観光客に提供したい」と、佐々木副組合長からもアイディアが飛び出す。
 「あとは『茶屋っこ』。それはかつて、岩木川の河畔で川漁師が営んでいたもので、旬の魚を調理して食べさせる場所。それも再現できれば」
 村上組合長のこの手の話はまだまだ尽きない。
 「西目屋村と協議しているのは、『管理漁場』。それは『アクアグリーンビレッジANMON』近くの上流部に、イワナとヤマメの成魚を放して釣り場にする」

 「川の文化を見直したい」という思いが強い村上組合長の「川の駅」「アユの観光梁」「茶屋っこ」「管理漁場」への夢は膨らむばかり。と同時に、それは岩木川漁協の存在意義であり、さらには弘前市や西目屋村の新たな観光資源の創出だと信じている。

 漁協事務所での取材を終えての帰り際、「この場所には昔、お城があったんです」と、小山さんが教えてくれた。
 たしかに事務所のある場所は、小高い丘になっていて、見通しも効く。
 「城に例えれば、城主にふさわしい人物が、今の組合長なんですよ」。
 その言葉は印象的で、村上組合長の51歳のリーダー像を物語っていた。

 川辺には黄色い菜の花が群れ咲き、流域に点在する園地では、リンゴの白い花が満開に咲き誇っていた。見上げれば、まだ雪を頂く津軽富士・岩木山(いわきさん/標高1625m)が、でんと鎮座して、なだらかに裾を広げている。
 帰る道すがらの風景は、津軽の春先らしい長閑で麗らかな眺めであった。
 惜しむらくは、そこを流れる濁りの消えない水である。
 取材に応じてくれたお三方の熱意をかみしめながら、この母なる川に一時も早く清流がもどることを願わずにはいられなかった。

◇周辺の主な観光スポット・施設
【星と森のロマントピア】
 星をテーマにしたリゾート施設。目玉の天文台「銀河」は、ハイテク反射望遠鏡を備え、夜の星はもちろん、昼間は太陽の黒点や金星などを観測できる。宿泊施設は、露天風呂がある温泉ホテル「星の宿白鳥座」とコテージ「満点ハウス」の2パターン。(弘前市大字水木在家桜井113-2、☎0172-84-2288)

【白神山地ビジターセンター】
 世界自然遺産白神山地の全容を写真・映像・ジオラマで紹介するとともに、人間との関わりも解説。大型スクリーンでの映像は、臨場感と迫力にあふれる。(中津軽郡西目屋村大字田代字神田61-1、☎0172-85-2810)

【アクアグリーンビレッジANMON】
 世界自然遺産白神山地に隣接する最高の立地に恵まれたレジャー空間。白神とその周辺のブナ樹を中心とした特徴的な自然を楽しめる。敷地内にはコテージ、キャンプ場といった宿泊施設はもちろん、大浴場も完備。子どもたちには、木のぬくもりにあふれた「わんぱく砦」がある。(中津軽郡西目屋村川原平大川添417、☎0172-85-3021)

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