津軽半島・三厩湾へと注ぐ2級河川〜今別町内水面漁業協同組合〜

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本州最北端に位置する青森県には、大きな半島が2つある。
東側のマサカリのような形をしたのが下北(しもきた)半島で、西側の人の横顔にも見えるのが津軽半島である。
どちらも天然自然に恵まれ、一方は下北半島国定公園、もう一方も津軽半島国定公園に指定され、優れた自然の風景地として、大切に保護されている。
今回の紹介は、津軽半島を流れる今別川(いまべつがわ)なので、この半島について、もう少しフォローしておきたい。
津軽半島は、西津軽郡鰺ヶ沢町(あじがさわまち)の鳴沢川(なるさわがわ)河口と、青森市の新城川(しんじょうがわ)河口をほぼ東西に結ぶラインから北に突き出たエリア。
南北の距離は約60km、東西は約50kmにおよび、青森市、蓬田村(よもぎたむら)、外ヶ浜町(そとがはままち)、今別町、中泊町(なかどまりまち)、五所川原市(ごしょがわらし)、つがる市、鰺ヶ沢町にまたがっている。
東は陸奥湾(むつわん)と平館(たいらだて)海峡、西は日本海に面し、北部は津軽海峡を挟んで北海道の渡島(おしま)半島と対峙している。
海岸部には高野崎(たかのさき)、龍飛崎(たっぴざき)、権現崎(ごんげんざき)といった磯浜の景観が見事な景勝地が多い。

【風光明媚な今別町の高野崎。野生植物も多く植生豊か】
河川は、東部から北部にかけての陸奥湾(むつわん)、平舘海峡、三厩湾(みんまやわん)に流れ込む川がすこぶる多い。
その数は、大小40本以上。多くは半島の中央部を貫く津軽山地を源にして、ひしめきあって流れているので、川釣り・渓流釣りファンにとっては、大いに興趣をそそられる地域ではなかろうか。
ちなみに津軽半島は、青森県が生んだ文豪・太宰治(だざいおさむ/1909~1948年)の小説『津軽』の舞台となった地でもある。
このため外ヶ浜町の観瀾山(かんらんざん)と龍飛崎には文学碑が建つほか、関連の記念館・資料館が龍飛崎と中泊町小泊(こどまり)、五所川原市に合わせて4館存在し、訪れる観光客も多い。

【今別川河口。三厩湾に流れ込んでいる】
「今別川の“売り”と言ったら、新幹線の駅を降りて、すぐそこに川があり釣りができること」
そう話すのは、今別町内水面漁業協同組合(以下「今別町内水面漁協」)の宮﨑藤雄(みやざきふじお)組合長だ。
今別川は、流路延長が約8.79km(青森県東青地域県民局地域整備部の河川情報より)の2級河川。津軽半島の山間部に源を発し、北上して三厩湾に流れ込む。その間にJR北海道新幹線の「奥津軽いまべつ駅」があり、すぐそばを今別川が流れているので、宮﨑組合長は“売り”と称したのである。
しかし、今別川は、その“売り”を、大々的にアピールできない現況にある。それは昨年(2022年)8月の豪雨で、川のあちこちで被害が発生し、現在、災害復旧工事が数箇所で行われ、さらには周辺の山林伐採なども、川の自然環境に影響を及ぼしているからだ。
「釣り場としては、本流は魚の数が少ないけれど大物が期待でき、支流は本当の意味での渓流釣りを味わえる。本来は、気軽にそんな川釣りを楽しめる場所なんですけどね」
宮﨑組合長は、昨今の今別川を取り巻く環境変化を憂える。

【今別川の下流部】
それでも今別町内水面漁協では今年、ヤマメの稚魚6千尾を5月9日、アユの稚魚7千尾を5月22日、イワナの稚魚6千尾を6月20日に、それぞれ放流した。
「釣り客は今、あまりぱっとしませんが、この川を知っている人は毎年来ているようで、東京とか横浜からの釣り人もいる。私も、向こうにいた時は、5月、8月、9月に定期的に来ていました」
という宮﨑組合長は、青森市出身なのだが、長く首都圏で会社勤めをし、10年前にUターンして、今別町に移住した。
今別町は高校時代、毎年キャンプで訪れていたほか、会社員時代には、採用担当として地元高校へも訪問していた馴染み深い土地であった。
フライフィッシングが趣味の宮﨑組合長は、高校時代の後輩の伝手も頼りにして「川釣りをやるため」に、この町に居を構えたのだという。

【今別川の上流部。水は澄んでいる】
その宮﨑さんに組合長の白羽の矢が立ったのは、移住して5年目、組合に加入して、まだ1年目のことだった。
町内の漁協関係者から、どうしてもと頼まれ、引き受けたそうだが、それは優れた事務処理能力が買われ、組合活性化のための人選であったようだ。
現在の組合員数は32人。活動は、種苗放流をはじめ、魚道確保のための草刈りや小中学生参加の河川の清掃を行っている。遊漁券は日券が400円、年券が3,000円。
「私が組合長になってから新たに4人ほど加入してもらいました。組合長でいるうちは、現状を維持したい。組合員の中には、興味がある人に釣り道具一式を貸して勧誘している積極的な組合員もいます」
水産業協同組合法の規定によると、組合員になるためには、組合の地区内に住んでいること、そして1年のうち30日から90日までの間で、組合の定款に定められた日数以上、漁業、漁業従事、採捕(釣り人等)していなければならない。
「その規定がちょっと厳しいように思います。若い人の場合、仕事をしながら、その規定を満たせる人は、なかなかいない。それと地元の人でないと組合員になれないというのも、人口減少が進む現状では困難。ですから法律と現実との乖離が、少なからずあるんです」
宮﨑組合長のこの問題提起は、地方における内水面漁協の多くが抱くジレンマにほかならない。
今年は、10年に1度の漁業権免許切替時期にあたり、その書類作りや今別川の自然環境回復を訴える県への要望書作成など、宮﨑組合長は、組合に関わる事務的な業務一切を一人でこなしている。
「事務的なことはきらいじゃない。でも、もう70歳、次の(漁業権免許)切替の時は80歳ですから……」
宮﨑組合長の今の目標は、安定した事務局体制を整えることで、それが次世代へ引き継ぐための自身の役目だと考えている。

【今別川の上流部。護岸から容易に釣り糸を垂らせる】
今別川を河口から上流部まで実際に辿ってみると、たしかに昨年の豪雨による倒木や災害復旧の工事箇所があった。
しかし、その一方で、釣り糸を垂らしてみたい釣り場も、多々見受けられた。
それにしても、この川は交通の便が悪くない。
新幹線駅もさることながら、県道14号が川の流れに沿って河口から上流部まで続いているのだ。
今別川の環境が厳しいことは否めないが、この交通の利便性を生かせないものかと想像してみれば、今別川を起点に、数ある津軽半島の川釣り巡りを楽しむことも一興では。
その際の遊漁券は、フィッシュパスの〈オンライン遊漁券〉から購入できる「青森県内共通遊漁券」がおすすめです。
https://www.fishpass.co.jp/news/archives/23296
周辺の主な観光スポット・施設
道の駅いまべつ 半島プラザ アスクル
JR北海道新幹線「奥津軽いまべつ駅」に隣接。今別町の特産品や津軽半島の物産を販売。レストランでは、幻とまで言われた貴重な「いまべつ牛」が食べられる。ステーキや焼肉定食のメニューがある。ほかに今別特産のモズクを練り込んだ「もずくうどん」も、のどごしがいい。
東津軽郡今別町大川平字清川87-16 ☎0174-31-5200

青函トンネル入口広場
青函トンネルの本州側入口に整備された公園。ここから全長53.85kmの海底トンネルが北海道へと延びる。展望台も設置されていて、新幹線が青函トンネルを出入りする様子を間近で見ることができる。ゴオーという音が、徐々に大きくなって、轟音とともに目の前に現れる姿は圧巻。駐車場の傍らには、“叶明神”と称する「トンネル神社」もあり、祈願の効力は、旅行安全のご利益、合格・就業成就のご利益などで、トンネル工事にあやかって「願いの一心、岩をも通す」だとか。
東津軽郡今別町浜名字黒崎地内 問い合わせは今別町役場産業建設課 ☎0174-35-3005

【展望台からは新幹線の出入りする様子が間近に】

【駐車場の傍らにある「トンネル神社」。その存在がユニーク】
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