“ご当地サーモン”の試験養殖にチャレンジ!〜野辺地川漁業協同組合〜

2023/07/28

野辺地川(のへじがわ)漁業協同組合

 野辺地川(のへじがわ)が流れる青森県上北郡野辺地町は、下北半島の西側の付け根に位置し、野辺地湾に面している。
 江戸期には、南部藩の商港として栄えた土地柄で、その港は野辺地川河口周辺に広がっていた。興隆期には、秋田県の尾去沢(おさりざわ)鉱山から産出された銅や南部領内から搬出された米、海産物、農産物の積出港であった。

 その名残は、河口東側の海辺に建つ常夜燈(じょうやとう)に偲ぶことができる。文政10年(1827年)の建立とされ、かつては夜間入港する船への目印として、旧暦3月10日から10月10日までの毎夜、火が灯されたという。

【野辺地川の河口。野辺地湾へと流れ込む】

 野辺地川は、隣接する東北町との境にそびえる烏帽子岳(えぼしだけ/標高720m)に源を発する2級河川。
 上流は清水目川(しみずめがわ)といい、東流しながら国道4号と交差するあたりで流れは北に転じ、町の中心部を貫いて陸奥湾(むつわん)の支湾の野辺地湾へと流れ込む。 
 その流路延長は約17km、流路面積は約61km2。本・支流沿岸の低地には水田が広がり、川の水は灌漑用水として利用されてきた。

 「昨年(2022年)は、雨被害で今ひとつでしたが、今年はコロナ禍も一段落して、期待できそう」
 野辺地川漁業協同組合(以下「野辺地川漁協」)の佐藤淳二組合長を取材したのはアユ釣り解禁前、シーズンを目前に控えて、期待を膨らませていた。

【アユ釣りは下流から中流の街なかでも楽しめる】

 野辺地川漁協の管轄は野辺地川本流と、二本木川、枇杷野川(びわのがわ)、清水目川、添ノ沢(そえのさわ)の4本の支流。
 同漁協では今年(2023年)の6月19日にアユの稚魚を放流し、その後はヤマメとイワナの稚魚も放流した。
 アユ釣りは、下流から中流にかけての街なかでも可能で、手近で楽しめるのが魅力。佐藤組合長によると、本流の上流と各支流では、イワナ、ヤマメの魚影も濃いという。遊漁券は日券600円、年券3,000円で、本・支流ともに使用できる。

【本流上流部や支流では渓流魚の魚影が濃い】
【本流上流部にある清水目ダム。ここから河口部までが野辺地川漁協の管轄】

 佐藤組合長は、今年で組合長になって13年目を迎えた。父の信夫さんも長きにわたって組合長を務め、地元の内水面事業に貢献してきた。佐藤組合長は、その父の影響で組合に入ったという。
 「漁協と川を守っていくという使命感は、やはり父から受け継いでいます」
 現在、同漁協の組合員数は20人。これは水産業協同組合法に定める法定員数(20人)ぎりぎりの人数だ。

 もちろん、この数だと、組合活動にも限界が生じ、「稚魚放流の費用ひとつとっても、組合費と遊漁券収入だけでは、おぼつかない」のである。
 そこで組合では、他の事業を手がけて、収入アップを図っている。
 その事業の一つは、春のシロウオ漁である。
 シロウオ(素魚)とは、スズキ目ハゼ科に属する体が透明な小魚。体長は、成魚でも5cmほどにしかならない。春の産卵時に、海から川へさかのぼり、その機会を捉えて漁を行う。
 活魚のまま食べる踊り食いや卵とじが代表的な食べ方で、青森県内では春の風物詩としても有名だ。

【野辺地川漁協の佐藤淳二組合長】

 「今年は4月中旬に梁(やな)をかけ、6月上旬に解体したが、今季はよく獲れて、去年の1.3倍ぐらいの漁獲量でした」
 水揚げされたシロウオは、漁場近くにある組合事務所で一般客に販売されたほか、町内の飲食店などへも卸された。

シロウオ漁の梁は河口に設けられる】

 事業の2つめは、サケのふ化事業である。野辺地川漁協では、川の下流部にふ化場を保有しており、毎年9月には、サケを捕獲するための梁が設けられる。
 しかし、サケ漁は近年、不漁が続いている。2021年度の青森県調べによると、野辺地川が注ぐ陸奥湾では、沿岸漁獲、河川採捕ともに、前年度の3分の1まで落ち込んでいる。
 このため同組合では今年、やむなく北海道からサケの稚魚を仕入れ、3月から4月にかけて放流した。
 「サケが成魚になって還ってくるのは4年後だが、どの程度戻ってくるものなのか……」
 佐藤組合長も、ふ化事業の将来については、見通しを立てられないでいる。

 青森県内水面漁業協同組合連合会と青森県鮭鱒増殖協会の副会長の要職にもある佐藤組合長は、「日曜がない」というほど忙しい。
 さらに同漁協が昨年から取り組んでいる新事業が、多忙な日常に拍車をかけている。
 その新事業とは、「青い森紅(あおいもりくれない)サーモン」の試験養殖。
 青い森紅サーモンは、青森県産業技術センター内水面研究所(以下「県内水研」)が開発した“ご当地サーモン”で、約15年の研究開発期間を経て、2020年11月にデビューした。

【野辺地川支流の枇杷野川。中流部に青い森紅サーモンの養殖施設がある】

 地域名を冠した“ご当地サーモン”の養殖は、全国的な広がりを見せているが、青い森紅サーモンは、淡水養殖に適した青森系ニジマスの雌と、大型の海面養殖用の海水耐性系ドナルドソンニジマスの雄との交配でつくられた。

 公式ホームページ(https://aoimori-kurenai-salmon.jp/)によると、青森県のきれいな河川水や湧き水を利用した淡水養殖で、出荷前の仕上げ期間に青森県特産のリンゴとニンニク入りの餌を与えているとのこと。
 身はその名の通り美しい紅色。食味の特徴は、一般的なサーモンに比べ、控えめな脂のりで、さっぱりしているという。

 野辺地川漁協では昨年、県内水研からわけてもらった発眼卵1,000粒をふ化させ、現在は枇杷野川中流部にある養殖施設で育てている。
 「私も含めて組合員が朝と夕、交代で餌をやっていて、生育は順調。ほかにも県内水研から細かく指導してもらっています」
 取り巻く環境が厳しい中で漁協の活路を見出そうと、奮闘する佐藤組合長。
 「取り組んで丸1年、可能性を秘めた事業であることは確かです」
 この“ご当地サーモン”は、成魚まで4年かかるそうだ。
 ということは、あと3年。
 小さな漁協のチャレンジが、大きく花開くことを期待したい。

◇周辺の主な観光スポット・施設
【常夜燈公園】
 野辺地川河口の東岸にある公園。常夜燈が公園の象徴として、海辺の一画に建ち、かつての商港としての面影を今に伝えている。
 園内に展示されている「北前船(きたまえぶね)」の復元船も圧巻。
 北前船はかつて大阪から瀬戸内、日本海岸を経て蝦夷地(えぞち)に至る航路で活躍した商船。
 復元された船は、日本古来の和船の建造技術や歴史を後世に伝えようと船大工16人によって建造され、2005年に完成した。全長32m、全幅8.5m、帆柱の高さは28mもあり、テレビドラマや映画でも使われたことがある。

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