「金アユ」釣りの名川、太公望は県内外から〜鯵ヶ沢町漁業協同組合 赤石支所〜
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Toggle鯵ヶ沢町(あじがさわまち)漁業協同組合 赤石支所
上流を眺めれば、青森県内最高峰の岩木山(いわきさん/標高1,625m)の穏やかな山容が空に浮かぶ。
振り返れば、日本海沿岸部を走るJR五能線(ごのうせん)の鉄橋が川をまたぎ、3両編成のローカル列車がガタンゴトンと通り過ぎて行く。
西津軽郡鰺ヶ沢町(あじがさわまち)を流れる赤石川(あかいしがわ)の河口風景は、旅情をかきたててやまない。
その赤石川を訪ねたのは、アユ釣りが解禁されて間もなくの7月初旬。
河口から車でさかのぼること約1km、橋に差しかかって川面を見れば、アユ釣りをする人が下流に5、6人、上流にも数人が長い竿を持って釣り糸を垂れている。
この川は、言わずと知れたアユ釣りの名川で、毎年シーズンになると、青森県内外から大勢の太公望がやってくる。
それもそのはず、赤石川に生息するアユは「金アユ」と呼ばれ、魚体が金色を帯びていることで有名なのだ。
その理由は、川水に含まれる黄鉄鉱の成分が体内に吸収され、背や腹部を金色にするのではないかと言われている。
もちろん金アユは優れた香りと食味にも定評があり、高知県で開かれている日本各地のアユを食べ比べる「清流めぐり利き鮎会」の第12回(2009年)と第21回(2018年)では、準グランプリに輝いている。
赤石川は、秋田県境にある世界自然遺産白神山地(しらかみさんち)の二ツ森(標高1,086m)あたりに源を発する2級河川。
深山幽谷を北進し、鰺ヶ沢町の西側を流れて、JR陸奥赤石駅近くで日本海へ注ぐ。その流路延長は44.6km(うち34.7 kmが河川法に基づく2級河川指定延長)、流域面積は179.9㎢。
その川沿いをたどる県道は、河口から中流部までが非常に平坦。河口から約14 kmさかのぼった温泉宿「熊の湯温泉」まで車を走らせ、川の様子を観察したが、高い護岸もほとんどない。
つまり、赤石川の釣り場としての特徴は、道路から河原へのアプローチが容易なことで、この川が釣り人に好まれる一つの理由は、その点にもあるのだろうと納得させられた。
赤石川の漁業権を有する鯵ヶ沢町漁業協同組合(以下「鯵ヶ沢町漁協」)の現在の組合員数は380人。同漁協は、海水面・内水面ともに漁業権を管理していて、2020年12月に、それまであった内水面の赤石水産漁協と合併して、今の組織体となった。内水面業務に関しては同漁協の赤石支所が担っている。
「(内水面の)漁業権は、赤石川の本流と支流すべてに及んでいる。ただし上流部の世界自然遺産の登録区域は禁漁です」
そう話す赤石支所長の石岡辰雄さん(65)によると、昨年(2022年)8月の豪雨の爪痕がまだ残っており、「熊の湯温泉」あたりから上は、まだ川沿いの道路が復旧していないという。
鯵ヶ沢町漁協では今年5月24日、アユの稚魚3万尾を放流した。
その放流数の多さに加え、県内唯一の「あゆ養殖場」が川の中流部にあることも、赤石川がアユ釣りの名川とされる大きな要因と言える。
同漁協では今年6月1日にヤマメの稚魚1万尾も放流している。
昨年8月の豪雨は、鯵ヶ沢町漁協の事業にも被害を及ぼした。
それは、赤石川の河口に設置されたサケの梁(やな)施設の損壊である。
「ここ赤石川には昭和55年(1980年)に『県営赤石川さけます実験ふ化場』が設置され、私は、昭和58年から漁協の事業に携わっています」
石岡支所長は、サケのふ化放流に関して、その道40年のスペシャリストなのだが、事業の存続が今、危ぶまれている。
「後継者がいないんです。たとえ梁を修復したとしても、その先を引き継いでくれる人材がいなければ、無駄になってしまいます」
鯵ヶ沢町漁協では昨年の秋、川ではなく、海で漁獲した親魚の提供を受けて採卵・ふ化させている。
「海で獲った雌の親魚は、まだ卵が成熟していないので、蓄養池に放して1週間から10日間ほど待たなければならず、その見極めが難しい」
石岡支所長によると、ふ化の一連の技術を習得するには、少なくとも4、5年の年月は必要だという。
「紙に書いて教えられるものでなく、それなりの実体験が必要。でも、ふ化放流に関わる期間は、サケ捕獲の10月から翌年3月の稚魚放流までの半年しかない。1年を通して働けないので、なかなか若い後継者が定着しない」
青森県内でも近年、サケ漁の不振が続いている。
青森県農林水産部がまとめた「青森県さけ速報(確定版)」によると、令和元年度の沿岸漁獲は672,350尾、河川採捕は5,041尾。
令和2年度の沿岸漁獲は465,345尾(前年度比69.2%)、河川採捕は5,150尾(同102.2%)。
令和3年度の沿岸漁獲は172,761尾(前年度比37.1%)、河川採捕は1,827尾(同35.5%)となっており、海、川ともに漁獲量は、この3年間で著しく減少していて、サケのふ化放流事業を取り巻く環境は、年々厳しさを増している。
かつて筆者は、赤石川における梁施設もサケの産卵の様子も見たことがある。
放流された稚魚は、3~4年にわたる大海原での生存競争を生き抜いて、また戻ってくる。
その産卵風景は、河口から数百メートル上流の橋の上から目視できた。
雌の親魚が、婚姻色が目立つ横腹を川面に何度も叩きつけ、懸命に尾びれで川底の砂利を飛ばしていた。
梁場近くの河原には、産卵を終え、干からびてしまった死骸も横たわっていて、生命をつなぎ終えたその姿に、本懐を遂げた潔ささえ感じたものだった。
「今年も海で獲った親魚で、なんとか対応しようとは考えている」(石岡支所長)。
赤石川における母川回帰が、いつまでも続くことを願うばかりである。
周辺の主な観光スポット・施設
【海の駅わんど】
鰺ヶ沢町の観光拠点。「わんど」とは津軽弁で、「私たち」という意味。1階は飲食、お土産店、地場産品の直販スペース。鰺ヶ沢町は海産物が有名だが、畑作作物の栽培も盛ん。地元で採れた新鮮な果物や野菜、山菜などが売られていて、どれも安い。
2階は、「鰺ヶ沢相撲館」になっている。同町は、現役時代“技のデパート”と称され、今はNHK大相撲解説者の舞の海秀平さんの出身地。その舞の海さんゆかりの品々をはじめ大相撲に関する資料が、豊富に展示されている。入場料は無料。(西津軽郡鰺ヶ沢町本町246-4、☎0173-72-6661)
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