長野県 漁協探訪記Vol.2 〜天竜川漁業協同組合(後編)〜

2023/10/12

長野県漁協探訪記Vol.1天竜川漁業協同組合(前編)は、天竜川での釣り体験を、後編では、増殖事業や次世代の漁業者・釣り人育成への取り組みなどについて紹介します。

天竜川漁協の取り組み〜地域の小学校との交流〜

正午過ぎに実釣を終え、漁協事務所に戻ると、組合の歴史や近年、力を入れている活動について伊藤組合長から話を伺うことができた。
伊藤組合長はまず、地域の6つの小学校に放流体験を提供していることから語られた。

天竜川漁協の事務所内の様子
漁協事務所

地域交流のきっかけは、いつも行っている放流事業からだった。駒ケ根市立・赤穂小学校近くの河川で魚を放流していた際、小学校から声をかけられた。
「子ども達の総合的な学習の一環として、『小さな生命に興味を持つ』というテーマに合うことから、子ども達に放流について教えて欲しい」
というお願いだった。こうして始まったのが、稚魚放流体験である。 子ども達が抱え持つバケツから放たれた魚達は、最初は川に入った子ども達の足の影に集まってきていた。そのうち新しい環境に馴染んできたのか、川の中に散ってスイスイ泳いでいく。

子ども達は生きた魚に触れ、自ら放った魚達が元気に泳いでいく姿を観察して、身近な川での小さな生命の営みを実感できただろう。この体験を通じて、子ども達は根源的な命の始まりに興味を寄せるようになり、生命の尊さや自然との繋がりを学ぶ貴重な機会となったようだ。

稚魚育成と放流体験

現在では川での放流体験実施だけでなく、さらに一歩進んだ取り組みを行なっている。具体的には、漁協がアマゴの発眼卵を提供し、子ども達が学校の水槽で放流用の稚魚を育てるというものだ。子ども達は毎日の稚魚の世話と観察を通して、自発的にクラス活動に取り組むようになってきている。

発眼卵の育成記録
発眼卵から仔魚育成へ

昨今の情勢では物事の展開へのスピード感が求められる一方で、『生態系の維持や環境保全』といったすぐに答えの出ない課題への取り組みが、社会へ重くのしかかってきている。
このような風潮の中、この伊那谷地域では総合型学習の一環で、興味を持つテーマを各自の課題に設定し、情報収集、分析、意見交換や相互協力を通じて、将来に繋がる解決策を見つける「探求型教育」が行われている。

前述の子ども達の稚魚育成や放流体験は、生態系や地域環境に対する理解を深める機会となっており、地域への愛着や環境への関心が育まれる一因となっている。
その成果は如実に現れており、現在ではこの漁協活動が他校にも波及し、郡内の小学校6校へ広がっている。

「一緒に触れ合う活動から、未来の川と組合活動を担う人材が育てばいい」
組合長は、小学校から贈られた、漁協への“ありがとう”がたくさん詰まった観察絵日記を眺めて目を細めていた。

漁協へ送られた観察絵日記

幼少期に水に親しんだ者ほど、『川の豊かな恵みを次世代に繋ごう』と考える傾向がある。その基盤が天竜川漁協では実施されており、教育現場との連携という形で表れている。

また、毎年開催されている「春の子ども釣り体験教室」は、定員を増やしても対応しきれないほどの盛況ぶりのため、同様の教室を秋にも開催できないか関係団体と調整を図っているそうだ。地域の次世代に向けた親水活動は、ますます進展していくことだろう。

次世代への継承をめざす取り組みは、単なる体験提供にとどまらない。川の持続的な生態系維持のため、管轄漁場の増殖にも力を注いでいる。前回の実釣(前編参照)で出会った大物たちも、この努力の結晶と言えるだろう。

特に近年は、天竜川水系固有の在来魚を守り続けたいという意図から、秋の産卵期に成熟した成魚を放流し増殖を促進する、親魚放流に注力している。

内水面における有害生物の出現

アオサギのコロニー

「これ、何の写真か分かる?」

そう言いながら組合長が見せてくれたのは、森の背景に白いふんわりとした斑点が映し出された写真だった。答えに窮していると、
「アオサギのコロニーだよ」
と説明してくれた。
事務所近くの公園の樹上にあるコロニーを、ドローンで撮影したものだという。 拡大してみると、白い斑点は巣で卵を抱えている親鳥だ。それぞれの巣に4〜5個の卵があるそうだ。親鳥が営巣期間中に取る餌の量は、100kg超との見積もりがある(4羽のヒナがいる巣の場合)。その餌は、天竜川に棲む魚が大半となることは容易に想像がつく。カワウのみならず、サギの食害も軽視できないという状況が、この1枚の写真から十分に理解できた。

また、その他にも、放流魚の仕入れ価格の高騰や人手が限られた中で、漁協運営が多難な状況であることも明かされた。大きく変動する現代社会で、組合組織は様々な困難に立ち向かっているようだ。

取材中には、組合長を含む理事や事務員の方々から、多岐にわたる興味深い話を聞くことができた。
ある組合員は木製ルアー作りの名人で、その作ったルアーで釣りをするだけでなく、そのデザインの美しさから携帯ストラップとして日常使いしているそうだ。このような創意工夫や技術が、地域を豊かに彩っている。

ハンドメイドの木製ルアー
組合員製作のハンドメイド木製ルアー

組合長は天竜川のため、これからも漁協をはじめ釣り仲間や地域の支援者と共に、次世代への継承活動を続けていくのだろう。

愛する天竜川で釣果を撮影する伊藤組合長
伊藤組合長自ら撮影した天竜川のドローン写真

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