青森県におけるサクラマス栽培漁業の中心河川〜老部川内水面漁業協同組合〜
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Toggle老部川(おいっぺがわ)内水面漁業協同組合
老部川(おいっぺがわ)は、下北半島の東通村(ひがしどおりむら)南部を流れる2級河川。むつ市、東通村、横浜町(よこはままち)との境界近くにある石川台(標高339m)と横浜町北部の金津山(標高520m)の間に源を発し、北東に流れて下流部で東に流れを変え、太平洋へと注ぐ。流路延長は8.2km、流域面積は28.6km2。
この読み方がユニークな「おいっぺ」の語源は、アイヌ語由来であるようだが、意味は今一つ定かでなく、地元では「サケがあがる所」との言い伝えがあるようだ。
老部川内水面漁業協同組合(以下「老部川内水面漁協」)では、この老部川の本支流の漁場管理のほかに、老部川の河口部から北へ4km余りのところを流れる小老部川(こおいぺがわ)の本支流も管理している。この川は流路延長が4.7kmと短く、流域面積も15.5km2しかない。
釣り場としては、「今は小老部川のほうがいい。というのは一昨年(2021年)8月の豪雨で、老部川は川の形が変わってしまったから」と、老部川内水面漁協職員の相内雅勝さん(53)は話す。
確かに現地を確認してみると、小老部川の川沿いには舗装された県道が走り、その最上流部まで辿ることができる。川幅は広くなく、県道から河原へのアプローチも容易なので、釣行には向いているようだ。魚種は、主にヤマメ、イワナだ。ただし、原子力発電所の敷地内にある河口部には、入ることができない。
老部川沿いにも道路はついているが、車1台が通れる程度の狭い道で、初心者にはあまりおすすめできない。本来はヤマメの魚影が非常に濃い川なので、復旧が待たれるところだ。遊漁券の日券は400円、年券は1,500円、老部川、小老部川の本支流ともに有効。
老部川を語る時、忘れてならないのが、サクラマス増殖である。
歴史、規模ともに、青森県内におけるサクラマス栽培漁業の中心河川で、専用の「サクラマス孵化場」も備えている。
老部川のサクラマス増殖事業は、老部川内水面漁協が、今(2023年)から55年前の昭和43年(1968年)度からふ化放流に着手した。昭和59年度には旧来の老朽化した施設を廃止して、さけ・ます増殖施設整備事業で、ふ化場管理棟、幼魚池、飼育池、親魚池(人工河川)、給水施設を建設し、昭和61年度から本格的にスモルトの春放流を開始している。
スモルトとは、斑紋が消え体色が銀色になった幼魚で、その頃に放流すると回帰率が高まるとされている。
ちなみにヤマメとサクラマスは同種で、陸封型がヤマメ、降海型がサクラマスである。サクラマスは、孵化してから1年半ぐらいで降海し、海域のわりと沿岸に近い沖合を回遊して、さらに1年を海域で過ごして、40~50cmに成長して母川に回帰するという。
現在、サケの増殖施設は、老部川河口の漁協事務所に隣接して建ち、サクラマス孵化場は、そこから数百メートル上流にある。
「昨年度のサクラマスの稚魚・幼魚放流実績は19万1,000尾、そのうちの5万5,000尾がスモルト化した幼魚。放流数としては、青森県内ではダントツでしょう」
相内さんが言うように、老部川内水面漁協のサクラマス増殖事業は、自他ともに認める県内一の実績を誇っている。このため、繁殖保護の目的で、老部川河口付近は、保護水面に指定され、サクラマス、サケともに禁漁になっている。
「でも、一昨年の豪雨では、サクラマス孵化場が川の増水で、浸水してしまいました。水槽も人工河川も全部が水没してしまい、稚魚、幼魚は大部分が死滅しました」(相内さん)
しかし、その後、懸命の復旧作業が行われ、今現在は施設の機能を取り戻している。
老部川内水面漁協では、今年も8月27日からサクラマスの親魚の捕獲が始まった。
「サクラマスの採捕は、川に遡上してきた親魚を梁(やな)ではなく、網で捕獲する。その作業は14、5人で行うことになるが、地元消防団の人たちが協力してくれます。泳げる者7、8人が、水中に潜って網に追い込むのですが、絶対に手で触ってはいけない。触ると、魚体がすぐに傷んでしまう。サクラマスって、それぐらいデリケートな魚です」
相内さんは、老部川内水面漁協に勤めてまだ1年半ほどしか経っていないが、地元消防団の一員でもあることから、このサクラマスの捕獲には、もう25年間も携わっているという。
取材で訪ねたのは9月初めだった。漁協事務所に隣接する飼育池では、40~50cmに成長したサクラマスが勢いよく泳いでいた。
「青森県に申請している親魚の捕獲数は500尾以内です。近年の実績は、一昨年が375尾とまずまずでしたが、去年は99尾とまったくふるわなかった。でも、今年は1回めで180尾、そのうちメスが115尾と上々です」
昨年の不振とはうって変わり、今年の幸先良いスタートに、相内さんの表情も明るい。
この親魚の採捕は9月いっぱい行われ、10月初め頃には採卵・受精して稚魚を放流するほか、来年4月頃にはスモルト化した幼魚が放流されるという。
周辺の主な観光スポット・施設
【尻屋崎(しりやざき)】
東通村の尻屋崎は、下北半島の北東端にあり、津軽海峡と太平洋に突き出た岬。段丘面には芝生が広がり穏やかな景色を見せる一方で、海中には大小の奇岩、岩礁があり雄大かつ豪快な景観美を形成している。かつては“尻矢”“尻谷”“志利屋”という字が用いられたそうだ。
呼び物はなんといっても寒立馬(かんだちめ)で、吹雪の中でたくましく生きる様子は、いろいろな媒体で取り上げられ、今では下北半島観光の目玉となっている。
植生も魅力的。自生する植物の数が多いことと、そのいくつかは群落をつくること、そして生育面積が広いことが特徴。広大な草原で、春の5月から秋の9月までいろいろな花々を楽しむことができる。
昔から尻屋崎の沖合は、船乗りから“海の墓場”と恐れられるほどの海の難所であったことから明治9年(1876年)、尻屋埼灯台が設置された。レンガ壁による複層構造が大きな特徴で、昭和20年(1945年)には空襲で破壊されたが、戦後間もなく再建された。その高さ33mは、レンガ造り灯台としては日本一。令和元年(2019年)春から夏にかけて大規模な改修工事が行われ、その年の7月に完成。白亜の輝きもいっそう眩しくなって生まれ変わった。
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